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1 民法改正で変わること

2018年7月に相続法が大きく改正されました。
また、2019年1月13日に、改正された「自筆証書遺言の方式緩和」が施行されました。
この改正により、どのような点がどう変わったのか、「遺言」にポイントを絞って紹介します。
 

1.遺言書に添付する財産目録がパソコンで作成可能に

これまでの自筆遺言証書で必要だった手書きの財産目録から解放されます。

パソコンで財産目録作成

自筆証書遺言は「全文を自書する」ことが成立要件とされていますが(民法968条)、誤字脱字等のトラブルや、遺言を作る人の負担が大きくあります。
そこで、今回の改正では、財産目録に限りパソコンでの作成が可能となります。表計算ソフトなどで、財産の管理をしている方は、大きな負担軽減になります。

パソコンで作成する際は、土地であれば、所在、地積、登記地目など、預貯金であれば、金融機関名、支店名、口座種類、口座番号など、を記載し、印刷します。その印刷した財産目録に署名押印をして、有効な財産目録となります。

※財産目録が複数枚になる場合には、全てのページに署名押印が必要です。また、両面に記載がある場合には、両面に署名押印が必要です。

(施行日:2019年1月13日)

遺言者が希望すれば、法務局で自筆証書遺言を保管してくれるようになります。

遺言書

公正証書遺言は、公証役場でしっかりと管理されますが、自筆証書遺言を作成した場合には、これまでは、遺言者自身が遺言書を保管する必要がありました。

よくある保管場所は、自宅のタンスや机の引き出しの中、又は銀行の貸金庫などです。


しかし遺族が遺言書を発見できなかったり、遺言書の存在を知らない、という場合、せっかく遺言書を作成していても、遺言は無いも同然となってしまいます。

今回の改正では、自筆証書遺言を作成のうえ、無封の状態で法務局に持ち込むことで、遺言書の保管をしてもらえます。

法務局では、遺言書の画像情報、遺言書の作成日・遺言者・受遺者・遺言執行者の氏名住所等、遺言書の保管開始日、等を磁気ディスクで保管します。
これで、これまであった自筆遺言証書の紛失リスク、未発見リスク、偽装・隠ぺいリスクが、ほぼゼロになります。

(施行日:2020年7月10日)

3.裁判所の検認が不要になるケースも

自筆証書遺言は、相続開始後、遺言書を発見した相続人はその場で封を開けてはならず、そのまま裁判所へ持ち込み、裁判所の検認を受ける必要があります。

その手続きが終わらなければ、中身を読むことはできません。手続きを経ずに開封した場合、遺言自体が無効にはなりませんが、民法の規定により、5万円以下の罰金処分が下されることに加え、他の相続人に偽造を疑われる原因にもなりかねません。
また、裁判所の検認済証明書がないと、不動産や預貯金の名義変更といった遺言の執行ができません。検認手続きは1か月以上かかることもあり、その間は葬儀費用すら銀行から引き出せない、という状況があります。(公正証書遺言では検認手続は不要です。)

今回の改正では、法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言については、検認手続が不要となるため、相続の手続きがかなりスムーズになります。

4.遺言執行者(遺言執行人)の権限

遺言執行者とは、遺言の内容を執行する人で、遺言書の内容を忠実に実現するために、預貯金の相続や不動産の登記などの手続きを行います。

今回の民法改正により、遺言執行者は相続人のためではなく、「遺言者の意思を実現するため」に任務を行うこと、「遺言の内容を実現するため」に行為をする権限があることが明文化されました。

遺言者が生前に遺言執行者を指定する場合は、中立・公正に任務を行うことができる人を選ぶことが大切です。

(施行日:2019年7月1日)

5.そのほかに改正された点は

司法書士 峯村伸吾

長野密着司法書士 峯村伸吾です。
配偶者居住権を主張するには
登記が必要です。

遺言についての改正内容をお伝えしましたが、今回の改正では、ほかにも、実情に合った様々な方策が盛り込まれています。

配偶者居住権の創設

配偶者居住権は、被相続人が所有する建物に残された配偶者が居住していた場合には、被相続人が亡くなった後も配偶者はその建物に住み続けることができる権利です。

残された配偶者は、被相続人の遺言や遺産分割協議等によって、配偶者居住権を取得できます。配偶者居住権は、第三者に譲ったり、所有者に無断で賃貸したりできませんので、その分価値(財産的価値の評価)が低くなります。そのため、配偶者は自宅に居住しながら、預貯金など他の遺産をより多く取得することができるようになります。

配偶者居住権を主張するためには登記が必要です。権利関係をめぐるトラブルを避けるために、権利を取得したらできるだけ早く登記手続きをしましょう。

(施行日:2020年4月1日)

 

配偶者短期居住権

配偶者短期居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に居住していた場合に、遺産の分割がされるまでの一定期間、その建物に無償で住み続けることができる権利です。

配偶者の住む権利は、被相続人の意思などに関係なく、相続開始時から発生し、原則として、遺産分割により自宅を誰が相続するかが確定した日(その日が相続開始時から6か月を経過する日より前に到来するときには、相続開始時から6か月を経過する日)まで、配偶者はその建物に住むことができます。

また、自宅が遺言により第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄をした場合には、その建物の所有者が権利の消滅の申入れをした日から6か月を経過する日まで、配偶者はその建物に住むことができます。

(施行日:2020年4月1日)

 

自宅の生前贈与が特別受益の対象外に

例えば、結婚期間が20年以上の夫婦間で、配偶者に対して自宅の遺贈または贈与がされた場合。原則として、遺産分割における計算上、遺産の先渡し(特別受益)がされたものとして取り扱う必要がないこととしました。

改正前では、被相続人が生前、配偶者に対して自宅の贈与をした場合でも、その自宅は遺産の先渡しがされたものとして取り扱われ、配偶者が遺産分割において受け取ることができる財産の総額が減ることになりました。そのため、被相続人が、配偶者へ生前贈与をしていても、原則として、配偶者が受け取る財産の総額は、生前贈与をしないときと結果的に変わりませんでした。

今回の改正により、自宅についての生前贈与を受けた場合には、配偶者は結果的により多くの相続財産を得て、生活を安定させることができるようになります。

                       (施行日:2019年7月1日)

 

亡くなった人の預貯金が一部引出し可能に

これまでは、生活費や葬儀費用など、お金が必要になった場合でも、相続人は遺産分割が終了するまでは被相続人の預貯金の払戻しが一切できないという問題がありました。結果、遺族が生活に困る事態になることもありました。
今回の改正による「預貯金の仮払い制度」で、心配の種は減るかもしれません。
預貯金の仮払い制度とは、亡くなった人の預貯金の一部を、相続人が引き出せる、というものです。遺産分割前や、相続人全員の同意がなかった場合でも、単独で被相続人名義の預貯金の一部を払い戻しできます。
ただし、仮払いできる金額には上限があり、その額は、遺産分割において相続分から差し引かれます。

                       (施行日:2019年7月1日)

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