「遺贈」も「相続」も、亡くなった人の財産を引き継ぐ点では同じです。ただ、遺言に「遺贈」と書いた場合と「相続」と書いた場合では、相続の手続きを進めるにあたって取り扱い方が大きく変わってきますので、遺言作成時には注意が必要です。
「遺贈」も「相続」も、亡くなった人の財産を特定の人が引き継ぐ、という点では同じです。民法で、法定相続人と法定相続分が定められていますが、遺言を作成していれば、民法で定められている法定相続人や法定相続分とは異なる内容で財産を受け継がせることができます。
相続
相続とは、亡くなった方の財産を法定相続人(民法で定められた相続人。配偶者、子、両親、祖父母、兄弟など。)に引き継ぐことを言います。遺言書に記載する際は「相続させる」と記載します。
遺贈
遺贈とは、遺言書により無償で財産を引き継ぐことを言います。
遺贈を受ける人(受遺者)に制限はなく、法定相続人でも良いですし、法定相続人以外の第三者にも財産を引き継ぐことができます。遺言書に記載する際は「遺贈する」と記載します。
法定相続人以外の第三者の例
不動産の所有者が亡くなったら、不動産の名義変更の登記手続きが必要になります。相続と遺贈では、登記の手続きが異なります。
相続の場合、当該不動産を相続する相続人のみで不動産の所有権移転(名義変更)の登記手続きを進めることができます。また、債権者に対して、法定相続分を超えない範囲について登記が済んでいなくても権利を主張することができます。
遺贈の場合、当該不動産を引き継ぐ受遺者のみで不動産の所有権移転(名義変更)の登記手続きを進めることができません。相続人全員で登記手続きを行わなければならず、相続人全員の署名、捺印、印鑑登録証明書が必要になります。仮に、相続人のうち一人でも遺贈に反対であったり、手続きに非協力的であったりした場合、スムーズに登記することができなくなります。
また、登記が済まないと債権者に権利を主張することができません。もし、登記を済ませる前に債権者が不動産を差し押さえてしまった場合、受遺者は権利を主張することができなくなります。
その他、借地権や借家権を遺贈された場合、賃貸人(地主さんや大家さん)の承諾が必要となります。
農地の所有者が亡くなった場合も、農地の所有権移転(名義変更)の登記手続きが必要になります。農地の相続登記をする場合、相続と遺贈では、手続きが異なります。
農地法という法律で、農地の所有権移転の登記は、農業委員会若しくは都道府県知事の許可を受けないと、原則、登記申請をすることができないことになっています。しかし、相続の場合、例外的に農業委員会等の許可は必要ありません。ただ、農業委員会へ届出をする必要はありますので、忘れないようにしましょう。
「遺贈する」旨の遺言の場合は、その遺贈を受けた方が「相続人」か「相続人以外」か、その遺贈が「特定遺贈」か「包括遺贈」かによって取扱いが違ってきます。
遺贈を受けた方が相続人の場合:農業委員会等の許可は不要。
遺贈を受けた方が相続人以外の場合:特定遺贈では農業委員会等の許可が必要。
農地の所有権移転で農業委員会等の許可を受けるためには、受遺者が農業を営んでいるなど一定の要件があります。農業委員会等の許可が受けられず受遺者へ農地を引き継げないということになりかねませんので、遺贈をする場合は注意が必要です。
相続と遺贈では、税金の面でも差がでてきます。
相続も遺贈も「相続税」の対象となります。
相続と遺贈の相続税を比べると、遺贈の方が相続税が高くなります。
※税金に関する相談は税理士だけに許された業務となります。峯村司法書士事務所では、案件に応じて地元長野の最適な税理士と連携し、万全にサポートいたします。
相続 | 遺贈 | |
---|---|---|
登記手続き | 相続する相続人のみで可能 | 「受遺者と相続人全員」又は「受遺者と遺言執行者」で手続き |
権利の主張 | (法定相続分を超えない範囲は)登記が済んでいなくても可能 | 登記が済まないと主張できない |
農地の所有権移転 | 許可不要 | 相続人以外への特定遺贈は農業委員会、もしくは都道府県知事の許可が必要 |
借地権 | 大家の承諾不要 | 大家の承諾が必要 |
相続税 | 遺産総額と法定相続人の数によって計算 | 相続の2割加算 |
「相続させる」方が、手続き面・税金面でメリットあり!
遺言書を作成する時は、法定相続人には「相続させる」と記載することをお勧めします。
『相続』と『遺贈』は似ていますが、様々な違いがあります。専門家のサポートを受けずに遺言書を作成する際に、言葉選びを間違えたり、配慮が不足していると、思いがけないトラブルとなる場合があります。実際に遺言書を作成する際に、気を付けるべき点を確認しておきましょう。
遺言は遺言者の一方的な意思表示となりますます。もし、遺贈を受ける人(受遺者)側に遺贈を受ける意思がない場合、遺贈を受けることを放棄することができます。そのため、遺贈したいと考えている場合には、遺言者は、事前に遺贈をしたい旨を受遺者や相続人に伝えておくとスムーズでしょう。
『相続』と『遺贈』は、亡くなった方の財産を引き継ぐ点は同じですが、手続き面や税金の面で様々な違いがあります。
たとえば、法定相続人に財産を引き継ぎたい場合は、遺言書には『相続させる』と書いた方が、手続き面でも税金面でもメリットがあります。
法定相続人以外の方へ引き継ぎたい場合は『遺贈する』と書きますが、そもそも法定相続人以外へ財産を遺贈することについて、法定相続人から不満が出て、トラブルになることがあります。
ご自身亡き後、相続人や大切な方々が円満に財産を引き継げるよう、遺言や相続について専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。
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